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高松高等裁判所 昭和63年(ネ)230号 判決

昭和六〇年(ネ)第二七号事件控訴人兼昭和六三年(ネ)第二三〇号事件附帯被控訴人(以下「控訴人」という。) 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 岡﨑永年

昭和六〇年(ネ)第二七号事件被控訴人兼昭和六三年(ネ)第二三〇号事件附帯控訴人(以下「被控訴人」という。) 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 藤原充子

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、金七〇〇万八八四三円及び内金六〇六万五〇〇八円に対する昭和六〇年七月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の本訴請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

三  この判決の主文一の1は、被控訴人において仮に執行することができる。

事実

第一申立て

(昭和六〇年(ネ)第二七号事件関係)

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

(昭和六三年(ネ)第二三〇号事件関係)

一  被控訴人

本件金員の支払につき仮執行の宣言

二  控訴人

附帯控訴を棄却する。

附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。

第二主張

左のとおり補足及び訂正するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、それを引用する。

1  原判決三枚目表四行目の次に、改行のうえ、左のとおり加える。

「控訴人は、昭和四三年七月一日、合資会社乙山観光(以下「乙山観光」ともいう。)を設立し、控訴人及び被控訴人の二人がその無限責任社員となり、この二人の個人会社として、不動産業とボーリング場を経営していた。しかし、乙山観光は、昭和五六年一〇月一日、ボーリング業界の不況などのため債務超過となって解散し、控訴人及び被控訴人がその清算人となった。」

《省略》

3  原判決四枚目表二行目の「5」を「6」と、八行目の「本件」を「原審」とそれぞれ改め、一〇行目の次に、改行のうえ、左のとおり加える。

「7 仮に、右6の主張が認められないとしても、乙山観光は、債務超過で支払不能に陥ったことから、同社の株式会社トーメンに対する前記債務につき、控訴人が、無限責任社員として支払義務があるため、昭和五六年七月より昭和五八年九月までの間、その不動産を処分するなどして、元利合計金四、四二六万八、六六六円を支払った。被控訴人においても乙山観光の無限責任社員として、右債務につき、控訴人と、連帯して、これを支払う義務がある(商法一四七条、八〇条一項)。

従って、控訴人は、被控訴人に対し、その負担部分である前記支払金の二分の一である金二、二一三万四、三三三円につき、求償権を取得した(民法四四二条)。

控訴人は、控訴人の被控訴人に対する右求償債権と被控訴人の控訴人に対する本件寄託金返還請求債権を対当額で相殺する旨の意思表示を昭和六〇年七月二日の当審第二回口頭弁論期日で行った。」

《以下事実省略》

理由

一  請求原因1の事実及び同2の事実のうち、本件当事者が右一郎の本件損害賠償債権を二分の一ずつ相続した点を除く爾余の事実は当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すると、亡一郎の両親である本件当事者双方が右一郎の本件損害賠償債権の二分の一ずつを同人の死亡に伴う相続により承継取得したことが認められ、他に右認定を動かすべき証拠はない。

二  《証拠省略》を総合すると、請求原因3の事実が認められ、他に右認定を動かすべき証拠はない。

請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

三  抗弁について検討する。

1  抗弁の冒頭部分の事実は、乙山観光の設立者が控訴人一人であるか否かの点を除き当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められ、他にこの認定を動かすべき証拠はない。

(一)  設立時における乙山観光の社員は、本件当事者二人(無限責任社員)のほか、その身内四人(いずれも有限責任社員)であった。

(二)  解散時において、乙山観光は、中村市右山字《番地省略》ほか数筆の宅地(いずれも控訴人の所有名義)上の建物一棟(遊技場、鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺二階建、一階二四一三・九三平方メートル、二階三三七・一六平方メートル)同附属建物一棟(居宅、木造スレート葺二階建、一階五〇・〇五平方メートル、二階四五・五四平方メートル)(この二棟の建物を以下「ボーリング場建物」という。)のほか、土佐清水市爪白字《番地省略》一九平方メートルなど二六筆の土地を所有していた。そして会社の負債は、トーメンに対する分が約七九〇〇万円、控訴人に対する分が約九〇〇〇万円それぞれ残存した。またボーリング場建物につき根抵当権(原因昭和四八年九月三〇日設定、極度額二億九〇〇〇万円、債務者乙山観光、根抵当権者トーメン)が設定されていた。

2  抗弁1について

昭和五七年一〇月一日に、本件自賠責保険金二〇〇〇万円が、乙山観光のトーメンに対する負債返済のため費消されたことを認めるに足る証拠はない。したがって、この金員が右のとおり費消されたことを前提とする抗弁1は採用できない。

3  抗弁2及び4について

抗弁2に関し、被控訴人が控訴人主張の連帯保証をしたことは当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》を総合すると、控訴人は、幡多信用金庫に対する控訴人の右負債を含む五二五〇万円の返済のため、本件自賠責保険金二〇〇〇万円を同金庫に支払ったことが認められ、他に右認定を動かすべき証拠はない。

しかし、被控訴人において、本件保険金を右の用途に消費することを事前に承諾したことないし事後に追認したことを肯認するに足る証拠はない。

したがって、被控訴人の右承諾ないし追認があったことを前提とする抗弁2及び4はいずれも採用できない。

4  抗弁3について

本件自賠責保険金全額が幡多信用金庫に対する控訴人の負債弁済のため費消されたことは抗弁2及び4に対する判断で認定したとおりである。したがって、右の事実と異なる事実を前提とする抗弁3は採用できない。

5  抗弁5について

(一)  《証拠省略》を総合すると、控訴人が昭和五八年七月三〇日、幡多信用金庫から借入れた五二〇〇万円の一部は、乙山観光のトーメンに対する負債の返済のために費消されたこと、右返済時において、乙山観光は債務超過の状態であったことが認められる。

(二)  しかし、控訴人が被控訴人の取得に係る本件自賠責保険金一〇〇〇万円を幡多信用金庫に対する控訴人の負債弁済のため使用したことが、被控訴人の利益に適すべき用法であったこと、ないし被控訴人において、その保険金を右用途に使用する意思を有したことを肯認するに足る証拠はない。却って、《証拠省略》によると、乙山観光の解散にあたり、本件当事者双方は、会社の解散後、控訴人において、ボーリング場建物とその什器備品類一切を控訴人が無償使用して、ボーリング場と喫茶店の経営を行い、かつ乙山観光のトーメンに対する債務の返済は、控訴人が代表清算人となり、会社の財産の処分を含む資金調達で行う旨を約束したこと、右約束にしたがい、乙山観光の解散後における右債務の返済は、代表清算人となった控訴人が全部行い、その資金は控訴人の幡多信用金庫等からの借入金や、控訴人所有の土地を売却した代金で賄われたこと、被控訴人に対し、トーメンから商法一四七条により準用される同法八〇条一項に基づく弁済の催告はないことが認められる。

(三)  したがって、抗弁5は採用できない。

6  抗弁6について

昭和五七年一〇月一日当時、乙山観光の幡多信用金庫に対する負債があったことを認めるべき証拠はない。したがって、右負債の存在を前提とする抗弁6は採用できない。

7  抗弁について

(一)  《証拠省略》によると、控訴人は乙山観光の無限責任社員として、昭和五六年七月から五八年九月までの間に前後二七回にわたり、乙山観光のトーメンに対する負債のうち少なくとも合計四四二六万八六六六円を弁済したこと、右期間を通じて、乙山観光は債務超過の状態であったこと、乙山観光の解散時における全社員の出資額合計一〇六〇万円のうち、控訴人の分が八二〇万円、被控訴人の分が八〇万円であり、その余の一六〇万円は全部有限責任社員の出資金であることが認められ、他に右認定を動かすべき証拠はない。

右認定事実に徴すると、控訴人は、右支払金のうち、自己の負担部分を超えるものについて、他の社員に求償できるというべきである。そして一般に合資会社の社員が商法一四七条、八〇条一項の規定に基づき弁済した場合、その社員の求償権についての負担部分は、有限責任社員についてはその出資金額を限度とし、無限責任社員相互の関係では、各自の出資額の割合により定まると解するのが相当である。なお、右求償権は専ら社員間の負担の調整をはかるものであるから、求償された社員は、会社に資力(残余財産)があることを理由として、その求償を拒むことは許されない。

したがって、控訴人の右弁済金のうち、被控訴人に求償できる額は三九三万四九九二円(円未満切捨)となる。

44,268,666×800,000/8,200,000+800,000=3,934,992

(二)  控訴人が被控訴人に対し、控訴人の右求償権をもって、被控訴人の本訴請求債権を対当額で相殺する旨の意思表示を昭和六〇年七月二日の当審第二回口頭弁論期日で行ったことは当審記録に徴して明らかである。

したがって、右相殺の結果、被控訴人が取得した本件自賠責保険金残額は六〇六万五〇〇八円となる。

四  以上の事実及び説示によると、控訴人は被控訴人に対し、本件自賠責保険金残額六〇六万五〇〇八円と三の(二)の相殺前の保険金一〇〇〇万円に対する本訴状送達の日の翌日であることが原審記録により明らかな昭和五八年八月一二日から右相殺の日の前日である昭和六〇年七月一日までの年五分の割合による遅延損害金九四万三八三五円(円未満切捨)との合計金七〇〇万八八四三円及び内金六〇六万五〇〇八円に対する相殺が行われた日である昭和六〇年七月二日から完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。したがって、本訴請求は、右の限度で理由があるからこれを認容すべきであるが、その余の請求は失当として棄却すべきである。

よって、原判決は一部不当であるから、本件控訴に基づきこれを変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を、附帯控訴に基づく仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳澤千昭 裁判官 滝口功 市村陽典)

〈以下省略〉

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